歯科用3Dスキャナーのメリット・デメリットは?活用例や使用方法を解説
- 3Dスキャナー
- 2024.9.3
- メリット・デメリット
詰め物や被せ物、歯列矯正、インプラントなど、歯科治療の際に必要なのが歯型取りです。従来は、アルジネートやシリコンという粘土のような材料を、直接噛んで歯型を作成していました。この方法は、材料が固まるまで口を開けたままでいなければならず、患者の負担も少なくありません。
一方で、近年では歯科用3Dスキャナーを使って、歯型取りを行う歯科が増えてきました。歯科用3Dスキャナーの導入により、患者の負担軽減、高精度なデータ取得、治療時間の短縮などの効果が期待できます。本記事では、歯科用3Dスキャナーのメリット・デメリットを詳しく解説し、具体的な利用場面や使用方法についてもご紹介します。
目次
歯科用3Dスキャナーとは?
歯科用3Dスキャナーは、レーザーや光を用いて口の中をスキャンし、歯や歯茎の形状を3Dデジタルデータとして取得する医療機器です。口の中の3Dデータを得ることから「口腔内スキャナー」とも呼ばれています。
患者の口の中をスキャンするだけで、歯列やかみ合わせの状態を再現した3Dモデルを正確に作成できます。上下の歯列の3Dデータを取得するのに、わずか数分しかかからないため、患者の負担を大きく減らすことが可能です。
取得した3Dデータは、3Dプリンターと組み合わせて被せ物、詰め物などを作成したり、「インビザライン」と呼ばれる歯の矯正治療に用いられたりします。
歯科用3Dスキャナーの種類
歯科用に使用される3Dスキャナーは、大きく2種類に分かれます。
ひとつは上記でも触れた「口腔内スキャナー」と呼ばれるタイプです。装置を直接患者の口の中に入れて、スキャニングを行い、3Dデータを取得します。
もう一方は、デスクトップ型と呼ばれ、セットした模型をスキャンして3Dデータを取得するタイプです。既成の石膏模型や入れ歯をデジタルデータ化して、CAD/CAMシステムでの設計・製作に活用されます。
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歯科用3Dスキャナー導入のメリット
歯科用3Dスキャナーを導入するメリットは、主に5つあります。メリットを詳しく見ていきましょう。
歯の型取りといった負担の軽減
従来の歯型取りは、アルジネートやシリコンという粘土のような材料を口の中に含んで固まるまで待つ必要があり、患者にとっては大きな負担です。特に、口の中に物があるとえずいてしまう人にとっては、苦痛を伴うものでした。
しかし、歯科用3Dスキャナーを使用すれば、スキャナーで口の中をスキャンするだけでデータを取得できるため、苦痛を伴う型取りの必要がありません。患者はリラックスした状態でスキャンを受けられて、嘔吐反射のリスクも軽減されます。
高精度なデータ取得
歯科用3Dスキャナーは、レーザーや光を用いて口の中をスキャンすることで、高精度な3Dデータの取得が可能です。従来の型取りでは、変形や気泡の混入などの問題がありましたが、3Dスキャナーではそのようなエラーは生じません。
高精度な3Dデータが取得できるため、詰め物・被せ物やインプラントなどを、より精密に製作できます。適合性に優れたものができあがるため、従来のものと比較して、治療後の違和感や不具合の軽減が期待できます。
放射線の不使用
歯科用CTなどのレントゲン撮影では、どうしても微量の放射線被ばくが生じてしまいます。一方で、歯科用3Dスキャナーはレーザーや光を用いてスキャンを行うため、放射線被ばくの心配がありません。妊婦や成長期のお子様など、放射線の影響が気になる人にとって、安心・安全な検査を提供できます。
治療時間の短縮
歯科用3Dスキャナーの導入により、従来の型取りに要していた時間を大幅に短縮できます。歯列のスキャンは上下を合わせても数分で完了し、データは即座にコンピュータに取り込まれます。
これまでであれば、型取り後に模型を技工所に送付し、技工物が完成するまで数日~数週間かかるのが一般的でした。一方で3Dスキャナーでスキャンしたデータは、すぐに技工所に共有できるため、治療期間全体の短縮にもつながります。
デジタル化による効率化
歯科用3Dスキャナーで取得したデータは、デジタルデータとして保存・管理可能です。従来の石膏模型は保管スペースが必要で、破損や紛失のリスクへの備えが必要でしたが、デジタルデータであればこのような問題は生じません。
また、デジタルデータは他の歯科医院や技工所とも共有できるため、セカンドオピニオンを求めたり、専門性の高い技工所に依頼したりする際も、スムーズなやり取りが可能です。同時に複数の依頼ができるのも、デジタルデータならではのメリットといえるでしょう。
歯科用3Dスキャナー導入のデメリット
メリットの多い歯科用3Dスキャナーですが、注意すべきデメリットも存在します。ここでは下記の3点について見ていきます。
値段が高い
歯科用3Dスキャナーのデメリットのひとつに、従来の歯型取りに比べて初期費用が高くなる点があります。機種や性能によって価格差はありますが、数十万円から数百万円ほどの費用が必要です。
さらに、ソフトウェアのライセンス費用やメンテナンス費用などが必要となる場合もあるため、予算を含め計画的に導入を検討する必要があります。
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技術的な課題
歯科用3Dスキャナーで高精度なデータを取得するには、ある程度の技術と経験が必要です。スキャナーの種類や機種によって操作方法が異なるため、使いこなせるようになるには、トレーニングや練習を積み重ねなければなりません。
また、専用のソフトウェアの操作もマスターする必要があります。取得したデータを加工・編集したり、CAD/CAMシステムと連携させたりして、用途に合わせて操作できるようになることが重要です。
対応する技工所の不足
歯科用3Dスキャナーで取得したデータは、デジタルデータとして技工所に送信されます。ただ、すべての技工所が3Dデータに対応しているわけではありません。3Dスキャナーを導入する前に、付き合いのある技工所が対応しているか、確認するようにしましょう。
仮にデジタルデータの扱いが可能な技工所であっても、データの形式によっては対応できない場合もあります。事前に密な連携をとっておくことが重要です。
歯科用3Dスキャナーの具体的な活用例
ここでは歯科用3Dスキャナーの活用例を解説します。
矯正治療
矯正治療の際に、歯科用3Dスキャナーで歯並びやかみ合わせの状態を3Dモデル化すると、診断や治療計画の立案に役立ちます。治療前と治療後の比較が行えたり、スキャンした歯型から歯に装着する矯正装置を作製可能です。
3Dスキャナーで取得したデータをもとに作製した矯正装置は、患者一人ひとりの歯列に合わせたものなので、従来の装置よりもフィット感が高く、患者の不快感の軽減につながります。
詰め物や被せ物の製作
詰め物や被せ物などの製作時にも、歯科用3Dスキャナーが用いられます。歯の形状や周囲の組織との関係を正確に把握できるため、より精密な補綴物の設計・製作が可能です。
3DスキャナーとCAD/CAMシステムを連携させれば、その場で迅速に補綴物を製作できます。患者の通院回数を減らし、治療期間の短縮に有効です。
インプラント治療
歯科用3Dスキャナーは、インプラント治療の際にも有効です。インプラントを埋入する位置や角度、深さを正確に計画するためには、患者の口の中を正確に把握する必要があります。
CT画像と組み合わせれば、顎骨の内部構造や神経の位置などを立体的に把握できるため、安全で確実にインプラント埋入手術が可能となります。
歯科用3Dスキャナーの使用方法
実際に歯科用3Dスキャナーがどのように使用されるのか見ていきます。
準備とキャリブレーション
歯科用3Dスキャナーを使用する前に、適切な準備とキャリブレーションを行わなければなりません。まず、スキャナー本体と接続されているコンピュータが正常に動作していることを確認し、必要なソフトウェアを起動させます。
次に、スキャナーのキャリブレーションを行います。キャリブレーションとは、スキャナーの精度を維持するために、定期的に行う調整作業です。キャリブレーションを行う場合には専用のツールを使用します。
キャリブレーションが完了したら、スキャナーの先端部分や周辺に汚れや異物がないかを確認し、必要であればクリーニングを行います。
スキャン対象の準備
3Dスキャナーの準備を終えたら、次に行うのがスキャン対象となる患者の口の中の準備です。患者の口の中を清潔にし、唾液や血液が付着していないかを確認します。唾液や血液が残っていると、スキャナーの光を反射させてしまい、精度を低下させてしまいます。
必要に応じて、患者の口の中を広げて固定したり、パウダーを塗布したりして、正確なデータが測定できる環境を整えます。高精度のデータを取得するには、準備の段階で患者に協力してもらうことも重要です。
スキャンを実行しデータを取得する
準備が整ったら、スキャナーを操作してスキャンを実行しましょう。スキャナーの種類によって操作方法は異なりますが、一般的には、スキャナーの先端部分をスキャン対象に近づけ、ゆっくりと動かしながらスキャンを行います。
スキャンが完了したら、取得したデータを保存します。保存後は必要に応じて編集したり、CAD/CAMシステムと連携させたりして、用途に合わせた後処理を行います。
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まとめ
歯科用3Dスキャナーは従来の型取りに比べて、患者への負担軽減や高精度なデータ取得、治療時間の短縮など、多くのメリットが存在します。矯正治療、詰め物・被せ物の製作、インプラント治療など、さまざまな歯科治療において活用されています。
一方で、導入コストや技術的な課題、対応する技工所の不足など、いくつかのデメリットがあることも忘れてはいけません。ただ、技術の進歩とともに、これらのデメリットは軽減されつつあり、今後ますます普及していくことでしょう。
歯科用3Dスキャナーが、患者と歯科医師の双方に大きな効果をもたらすのはまちがいありません。とはいえ実際に導入を検討する際には、メリットとデメリットを理解し、自院の診療内容やニーズに合った機種を選ぶことが重要です。本記事を参考に、最適な歯科用3Dスキャナーを導入してみてください。