金属3Dプリンターとは?4つの造形方式とメリット・デメリットを紹介
- 3Dプリンター
- 2025.4.14

金属3Dプリンターといえば、従来の切削加工では困難な形状の製造を可能にする画期的な手法です。ただ、どのような造形方式があるのか知らない人もいるのではないでしょうか。
本記事では、パウダーベッド方式、指向性エネルギー堆積方式、熱溶解積層方式、バインダージェット方式の4つの主要造形方式の特徴とメリット・デメリットを詳しく解説します。最後までご覧いただければ、金属3Dプリンターの基礎知識から応用までご理解いただけるでしょう。
目次
金属3Dプリンターとは
金属3Dプリンターとは、金属粉末やワイヤーなどの金属材料を積層して、立体的な造形物を作り出す装置です。切削加工のような材料を削り出す方式ではなく、必要な部分だけを積み重ねていく方式であるため、最小限の材料で複雑な形状を製造できます。
航空宇宙産業や医療分野、自動車産業などで利用されており、部品の軽量化や試作品の製造などに役立っています。特に、複雑な内部構造を持つ部品や、複数の部品を一体化させた部品の製造において金属3Dプリンターは効果的です。
近年では、家庭用3Dプリンターで印刷可能な金属素材も登場しており、より安価に金属の立体造形が楽しめる環境も広がっています。
このように、自由度の高い設計や製造プロセスの効率化をもたらす金属3Dプリンターは、ものづくりの現場に不可欠な装置といっても過言ではないでしょう。
金属3Dプリンターの造形方式
金属3Dプリンターにはさまざまな造形方式があります。ここでは主な4つの造形方式について解説します。
- パウダーベッド方式
- 指向性エネルギー堆積方式
- 熱溶解積層方式
- バインダージェット方式
各造形方式について詳しく見ていきましょう。
パウダーベッド方式
パウダーベッド方式は、金属3Dプリンターの中でも一般的な造形方式のひとつです。金属粉末を均一に敷き詰めたベッド上にレーザーや電子ビームを照射して、金属粉末を溶融・凝固させて一層ずつ造形物を作り上げます。
- 高い精度と複雑な形状の造形を実現できる
- ステンレス鋼やチタン合金、アルミニウム合金など材料の種類が豊富である
- 他の方式に比べて造形速度が遅い
- 造形後の後処理が必要である
指向性エネルギー堆積方式
指向性エネルギー堆積方式は、ノズルから噴射した金属粉末やワイヤーに、レーザーや電子ビームなどの高エネルギー熱源を照射して溶融・凝固させて造形します。材料を供給しながら造形していくため、大型部品や複雑な形状の部品の製造に向いています。
- 大型部品の製造が可能である
- 異なる金属材料を組み合わせた造形ができる
- パウダーベッド方式に比べて精度が低く、表面が粗くなる
- 使用する材料によっては熱処理が必要となる
熱溶解積層方式
熱溶解積層方式は、フィラメント状の金属材料を加熱溶融し、ノズルから押し出して一層ずつ造形します。樹脂材料を使用した造形で用いられる場合の多い方式ですが、近年では金属材料が使用される場面も増えてきています。金属フィラメントを用いる場合は、造形後に脱脂・焼結が必要です。
- 他の金属3Dプリンターよりも初期投資を抑えられる
- 初心者でも扱いやすい
- 他の方式に比べて精度が低く、強度が劣る傾向にある
- 脱脂・焼結のプロセスが必要なため、造形時間や寸法精度の変化に注意しなければならない
バインダージェット方式
バインダージェット方式は、金属粉末を均一に敷き詰めたベッド上に、液体のバインダー(結合剤)を噴射し金属粉末を結合させて造形します。レーザーや電子ビームを使用しないため、特別な熱源を必要としない点が特徴です。
- 造形速度が速く大型部品の製造に適している
- 複数のヘッドを搭載した装置なら、さらに高速な造形もできる
- 熱影響が少ないため材料の変形や残留応力が抑えられる
- 他の方式に比べて強度が低く精度も劣る傾向にある
- 脱脂・焼結のプロセスが必要なため、造形時間や寸法精度の変化に注意しなければならない
金属3Dプリンターの4つのメリット
金属3Dプリンターに共通する主なメリットは、以下の4つです。
- 金属材料の特性を活用できる
- 最終部品製造に使える
- 切削ではできない形状も作れる
- 納期やコストを抑えて製作できる
各メリットを順番に見ていきましょう。
金属材料の特性を活用できる
たとえば、軽量でありながら高い強度を持つチタン合金や、生体適合性の高いステンレス鋼、耐熱性・耐摩耗性に優れた特殊鋼などの金属材料が利用できます。各金属材料の特性が活用できるため、製品の品質や性能を飛躍的に向上させられます。
金属3Dプリンターは、材料選択の自由度を高め製品の機能性を向上させる強力なツールといえるでしょう。従来の切削加工では困難であった複雑な形状と高性能な金属材料の組み合わせが実現可能です。
最終部品製造に使える
金属3Dプリンターの利用場面は、単なる試作品の製作だけにとどまりません。最終部品の製造にも十分活用できます。従来の製造方法で必要であった金型製作などの初期投資が不要となるため、必要な時に必要な数だけの部品を容易に製造できるのです。
自動車産業では、カスタムカーの部品や生産終了した旧車の補修部品などに活用されています。また、医療分野では、患者に合わせたインプラントや手術器具を製造しています。航空宇宙産業においては、オンデマンド製造を実現し在庫管理コストの削減を実現しました。
このように、少量多品種生産やオンデマンド製造に適した金属3Dプリンターは、従来の製造方法では対応できなかったニーズにも対応可能です。
切削ではできない形状も作れる
中空構造や格子構造、複雑な内部構造など、従来の製造方法では困難だった形状も金属3Dプリンターであれば製造可能です。軽量化のために複雑な内部構造が求められる航空部品や、多孔質の構造を持つ人工骨、冷却性を高めるために複雑な流路を持つ部品の製造も3Dプリンターであれば容易に製造できます。
金属3Dプリンターの活用によって、設計の自由度は飛躍的に高まり、製品の性能向上にも役立っています。今後も、従来の製造方法では制約されていた形状の壁を打ち破り、新たな可能性を切り開いてくれるでしょう。
納期やコストを抑えて製作できる
金属3Dプリンターは、金型製作などの初期投資の削減や、試作段階での手戻りを減らし開発期間の短縮にも効果的です。
従来の切削加工では数週間から数ヶ月かかる場合でも、金属3Dプリンターを用いると数日以内に試作品を製作できる場合もあります。数百万円から数千万円かかる金型製作が必要な部品でも、金属3Dプリンターでは金型が不要であるため、コストを削減できます。
多品種少量生産やカスタム製品の製造において、金属3Dプリンターのメリットを最大限に活用できます。
金属3Dプリンターの3つのデメリット
一方で、金属3Dプリンターのデメリットも忘れてはいけません。特に、以下の3つのデメリットには注意しましょう。
- 専門的な知識が必要である
- 設置環境の整備が必要である
- イニシャル・ランニングコストがかかる
各デメリットを順番に詳しく説明します。
専門的な知識が必要である
金属3Dプリンターを使用する際は、単に装置を操作するだけでなく、材料選定や設計、造形条件の設定、後処理など、幅広い知識と経験が求められます。金属材料の種類によって、最適な造形条件(レーザー出力、スキャン速度、積層ピッチなど)が異なります。部品の形状や用途に応じて、サポート材の設計や配置も変えなければなりません。金属材料や熱力学、機械工学など、幅広い知識が不可欠です。
金属3Dプリンターを最大限に活用するためには、専門的な知識を持った人材の育成が求められます。メーカーのサポートや、専門機関の講習会などを活用し、知識と技術を習得しましょう。
設置環境の整備が必要である
金属3Dプリンターの導入には、装置本体だけでなく、周辺機器や安全対策のための設備など、さまざまな要素を考慮しなければなりません。
金属粉末を扱うため、粉塵爆発のリスクを低減するための防爆対策が必要です。また、温度や湿度を一定に保つための空調設備も重要です。装置の振動を抑制するための防振対策も準備しましょう。設置場所の広さや、電源容量なども考慮する必要があります。
金属3Dプリンターを安全かつ安定的に稼働させるためには、専門業者に相談し設置場所の状況や、装置の仕様に合わせて最適な環境を整えなければなりません。
イニシャル・ランニングコストがかかる
金属3Dプリンターを導入するには、初期費用(イニシャルコスト)と、運用費用(ランニングコスト)の双方を想定しておかなければなりません。
- 装置本体の購入費用
- 設置費用
- 周辺機器の購入費用 など
- 金属粉末の購入費用
- 電力費用
- メンテナンス費用
- 人件費 など
このように多額の費用がかかるものの、適切な運用計画を立て、コスト削減に努めれば費用対効果を高められます。材料の使用量を最適化したり、省エネ型の装置を選んだりするなどすればランニングコストの削減につながります。
金属3Dプリンターに関するよくある質問
ここからは、金属3Dプリンターに関するよくある質問とその回答をご紹介します。
金属3Dプリンターの価格はどれくらい?
金属3Dプリンターの価格は、方式やサイズ、性能によって異なります。
熱溶解積層方式を採用した比較的安価な機種では、数百万円程度で購入できるものもあります。一方、パウダーベッド方式や指向性エネルギー堆積方式を採用した高性能な機種では、数千万円から数億円という価格帯になります。
装置の価格だけでなく、ランニングコスト(材料費、メンテナンス費用など)も考慮して自社のニーズに合った機種を選びましょう。
個人で使える家庭用金属3Dプリンターはある?
個人で手軽に使える家庭用の金属3Dプリンターは、あまり存在しません。金属3Dプリンターは、高出力のレーザーや電子ビームを使用したり、特殊な金属粉末を扱ったりするため、安全面や設備面での制約が多く個人での導入は現実的ではないからです。
金属フィラメントが使用できる比較的安価な3Dプリンターであれば、個人でも購入可能です。金属粉末と樹脂を混ぜたフィラメントを使用し、造形後に脱脂・焼結を行えば金属部品が造形できます。
現時点では個人で金属の造形物を製作したい場合は、金属フィラメントの利用がおすすめです。
金属3Dプリンターの試作依頼はできる?
金属3Dプリンターによる試作は、依頼可能です。金属3Dプリンターの導入には、高額な初期投資や専門知識が必要となるため、試作サービスを利用してから効果を検証するのがいいでしょう。
試作サービスを提供する企業は、さまざまな方式の金属3Dプリンターを保有しており、材料選定から設計、造形、後処理まで一貫して対応してくれます。複数の企業に見積もりを依頼したうえで試作を依頼するのがおすすめです。
まとめ
金属3Dプリンターは複雑形状の実現、材料特性の最大活用、最終部品製造への適用など多くのメリットがある一方、専門知識の必要性、設置環境の整備、高いコストといったデメリットも存在します。用途や目的に応じて最適な造形方式を選択することが重要です。
金属3Dプリンター技術は日進月歩で進化を続けており、製造業に新たな可能性をもたらしています。導入検討の際は、自社のニーズと各方式の特性を十分に比較検討することで、金属3Dプリンターのより効果的な活用が実現できるでしょう。
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