3Dプリンターで使える樹脂素材で高い強度を求めるなら?
- 3Dプリンター
- 2024.7.25
- フィラメント メリット・デメリット
3Dプリンターが安価で手に入るようにもなり、家庭でも企業でも活用される場面が増えています。
従来の製造法ではコストや時間がかかる複雑な形状の造形物であっても、3Dプリンターを活用すれば製作できるようになりました。
ただ、3Dプリンターで製作した造形物は、使用する樹脂素材の種類によっては強度に課題が生じる場合もあります。
本記事では、3Dプリンターにおける強度や樹脂素材の強度を向上させる工夫などを紹介します。
造形物の強度を改善したいと考えている方は、最後までご覧ください。
目次
3Dプリンターにおける強度とは?
3Dプリンターの強度とは、3Dプリンターで造形したものがどのぐらい丈夫かを表すものです。
例えば、落としても割れないか、重いものを載せても壊れないかを知りたいときに参考にします。
3Dプリンターの強度は、引張強度や圧縮強度、曲げ強度などの指標によって評価されます。
具体的には下記の表のとおりです。
- 引張強度:材料を両側から引っ張った際に耐えられる力を示す指標
- 圧縮強度:材料を圧縮した際に耐えられる力を示す指標
- 曲げ強度:材料を曲げた際に耐えられる力を示す指標
強度は、3Dプリンターの種類や使用する素材、造形条件、造形物の形状など、さまざまな要因によって変化します。
なお、3Dプリンターで造形物を製作する場合、素材を一層ずつ積み重ねる「積層」という方法が用いられます。
そのため、層と層の結合部分が、一体成形されたものと比べて強度が弱く、積層方向に対して垂直な方向の強度が弱くなる傾向があります。
3Dプリンターにおいて樹脂素材の強度を上げる6つの工夫
3Dプリンターで使用する素材にはさまざまものがありますが、一般的に樹脂素材は、金属素材ほど強度が高くありません。
しかし、造形条件や後加工などを工夫することで、樹脂材料でも強度を向上させることが可能です。
ここでは、具体的な方法を6つに分けて解説します。
造形方向を調整する
前述のとおり、3Dプリンターで製作した造形物は、積層方向に対して垂直な方向の強度が低くなります。
逆に積層方向に対して平行な方向であれば、強度は高くなります。
設計時にどの向きに力が加わるかを分析した上で、積層方向を調整するようにしましょう。
例えば板を造形する場合は、縦置きするよりも横置きにした方が層の数が減り、造形物の強度を上げられます。
後加工で強度を高める
造形後に加工を行うことで造形物の強度を高めることも可能です。
後加工の具体的な方法は、塗装やネジが有効です。
3Dプリンターで造形したネジ穴では不十分なこともあるので、その場合は、インサート加工を行ってネジの脱着に耐えられるようにする方法もあります。
その他条件によっては、下記の後加工で強度を高めることも可能です。
- 表面処理:研磨やコーティングで表面を滑らかにして傷や摩耗への耐性を向上させる
- 含浸処理:エポキシ樹脂などを染み込ませて内部の隙間を埋め、強度と剛性を向上させる
- 加熱処理:加熱によって結晶化を促進させて、強度を高める
例えば加熱処理で結晶化させる用途のPLA樹脂は、約100℃のオーブンで20分ほど加熱すると結晶化が進んで、耐熱性と強度が上がります。
流量をあげる
流量とはノズルから押し出すフィラメントの量です。
標準値は100%で、増減させるとノズルから押し出される線の太さが変わります。
流量をあげると線が太くなり、積層間でより強固に接着することが可能です。
例えば流量を110〜120%程度に設定すると、層間の接着が改善されて全体的な強度が上がります。
ただし、外壁や1層目を印刷する際に流量を増やすと、見栄えが悪くなることもあるので、流量をあげるのは充填部分のみにするといいでしょう。
ノズル温度を高くする
ノズル温度を高くすると、押し出されるフィラメントの粘度が低下するため、積層時に隣接する部分と接合しやすくなります。
例えば、PLAフィラメントの場合、通常の印刷温度が200℃だとすると、210℃に上げると層間の接着が改善されることがあります。
ただし、温度をあげすぎると素材が劣化したり、過度に変形したりすることがあるので、素材に適した範囲で温度設定することが重要です。
ABSの場合は、230℃から250℃程度が適していることが多いです。
プリント速度を速くする
プリント速度を速くすると、積層した下の層の温度が下がりきる前に、上の層を積層させられます。
結果として分子拡散が進み、強度が強くなるといわれています。
例えば、通常50mm/sで印刷している場合、60mm/sに速度を上げてみると、層間の接着が改善される可能性があります。
ただし速度を上げすぎると、造形精度が低下したり、層間の接着が不十分になったりすることがあるため、注意が必要です。
素材や造形物の形状に応じて、最適な速度を見つけましょう。
積層ピッチを狭くする
積層ピッチとは、層と層の間隔を意味します。積層ピッチが小さくなるにつれ、層の数を増やし、より滑らかで強度のある造形が可能です。
積層ピッチ0.15mmと0.45mmを比較すると、0.15mmのほうが70%も強度が上がるという文献も存在します。
例えば、通常0.2mmの層厚で印刷している場合、0.1mmに変更すると表面品質が向上し、同時に強度も増加します。
ただし、積層ピッチを狭くすると、造形時間が増加することに注意が必要です。
0.1mmの層厚で印刷すると、0.2mmの場合と比べて印刷時間がおよそ2倍になることを念頭に置いておきましょう。
強度の高い3Dプリンターの素材
3Dプリンターで樹脂素材を使う場合、造形の方法を工夫すれば強度を上げられます。
ただし、それでも造形物の強度が足りない場合は、素材自体を見直すことが重要です。
ここでは、3Dプリンターで使用できる強度の高い素材を紹介します。
なお、3Dプリンターで使える素材の詳細な物性は、フィラメント物性表を参考になさってください。
金属材料
金属材料は、強度、硬度、耐熱性、耐薬品性に優れているのが特徴です。
そのため、航空宇宙、医療、自動車などの分野で、高い強度と耐久性が求められる部品の製造に用いられます。
金属材料を用いた造形物を製作するには、金属3Dプリンターを導入する必要があります。
少しずつ普及が進んでいるとはいえ、金属3Dプリンター本体の費用は、樹脂の3Dプリンターと比べると高価なので、導入時には十分な検討が必要でしょう。
CFPR(炭素繊維強化プラスチック)
CFPRは、炭素繊維で強化されたプラスチック材料です。
Markforged社の機種では、ナイロン樹脂に短繊維のカーボンをブレンドしたOnyxという材料に、炭素繊維やガラス繊維などの長繊維を織り込み、金属並の強度を実現しています。
CFPRの特徴は、軽量ながらも高い強度と剛性を持ち、耐衝撃性、耐疲労性にも優れている点です。
自動車、航空機、スポーツ用品など、軽量化と高強度化の両方が求められる分野で用いられています。
エンプラ/スーパーエンプラ
エンプラ、スーパーエンプラとは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度に優れたエンジニアリングプラスチックです。
熱と衝撃に強いポリカーボネートや、耐磨耗性に優れて軽量素材であるポリアミドが、その一種です。
自動車部品や電子機器部品、医療機器部品など、過酷な環境下で使用される部品に用いられます。
例えば、ポリカーボネート(PC)は、その高い耐衝撃性から、安全ゴーグルやヘルメットのバイザーなどに使用されています。
ABS
ABS樹脂は、加工性に優れ、剛性・耐衝撃性・疲労強度などのバランスがよく、比較的安価である素材です。
電化製品の外装部品や試作品、模型、日用品など、幅広い用途で使用されています。
例えば、レゴブロックの材料としても有名で、その耐久性と安全性から、おもちゃ業界でも広く使用されています。
3Dプリンターでは、複雑な形状の機能的なプロトタイプを作成する際によく使用されます。
ナイロン12
ナイロン12は、高い靭性と優れた耐疲労特性を有する材料です。
そのため、繰り返し開け閉めする部材や歯車、ベアリング、ヒンジなど、摩擦や摩耗が発生する部品に用いられています。
ナイロン12にカーボンファイバーを組み合わせ、高い剛性及び曲げ強度を実現した材料も存在します。
例えば、自動車のエンジンカバーや電動工具のギアなどに使用されており、耐久性と軽量性を両立しています。
ポリプロピレン
ポリプロピレンは柔軟で強度が高い汎用プラスチック材料です。
折り曲げに対する耐性が強いため、食品容器や日用品、自動車部品など、幅広い用途で使用されます。
また、酸・アルカリ・油などの薬品に対して、優れた耐性を保有しているのも特徴の一つです。
例えば自動車のバンパーや、化学薬品用の容器、生活用品のヒンジ部分などに使用されています。
3Dプリンターでは、柔軟性が必要な部品や、化学的耐性が求められる製品の造形に適しています。
3Dプリンターで使える素材は、下記のページでも詳しく解説しているので、参考にしてください。
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まとめ
3Dプリンターでは、同じ樹脂を使用しても、造形条件、後加工など、条件を変えることで全く異なる強度の造形物が製作可能です。
強度を高めるためには、これらの要素を総合的に考慮し、最適な組み合わせを見つけることも3Dプリンターの楽しみ方のひとつかもしれません。
強度という観点で、さまざまな条件での印刷を行い、3Dプリンターの奥深さを味わってみてください。
そして、どうしても必要な強度が得られない場合には、別の素材も検討してみましょう。
弊社では製品の導入サポートをしておりますので、3Dプリンターの機種や素材選びでお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。