立体メッシュ構造が拓く未来と3Dプリントが描く新しい機械の姿
- 2025.12.22

目次
XPeng IRONの脚部を切り開いた実演が示した、構造と素材の革新
2025年11月5日、人型ロボット「XPeng IRON」が発表された。その姿は、まるで映画の世界から抜け出してきたかのように滑らかで自然だった。身体のラインはしなやかで、動作は人間そっくり。多くの人が驚きとともに、「これは本当にロボットなのか、人が中にいるのでは?」と疑ったほどだ。
しかし翌日、観客の前で行われたデモは、さらに衝撃的なものだった。
通電したまま、IRONの脚部――筋肉のように見える部分――がハサミで切られたのである。

だが、そこから現れたのは、金属の歯車や油圧装置ではなかった。
露わになったのは、蜂の巣のように規則正しく並んだ 立体メッシュ構造。それにもかかわらず、ロボットは安定したまま歩行を続けた。会場からは、大きな拍手が起こった。
この脚部を切り開いて内部構造を公開した実演は、単なる演出以上の意味を持つ。
それは、ロボット設計や機械づくりの常識そのものを問い直す、構造とものづくりの転換点だった。
従来の「組み立てロボット」の限界

多くのロボットは、モーターやギア、リンクといった硬い部品を組み合わせて動作を実現している。
しかしこの方式では、人の身体のような「しなやかさ」を持つ動きや、柔軟な反応を再現するのは難しい。
強度を高めようとすると動きは硬くなり、柔らかさを求めると壊れやすくなる。
「強さ」と「柔らかさ」は両立しにくい――この矛盾を抱えたまま、ロボット開発は続けられてきた。
立体メッシュ構造 「組み立て」ではなく「造形」による構造生成

XPeng IRONの内部にあった立体メッシュ構造は、部品を一つずつ組み立てて作られたものではない。
形そのものを設計し、一体で作り出す構造である。
材料の種類を切り替えるのではなく、網目の形や密度を変えることで、「支える部分」と「しなる部分」を同じ構造の中に共存させている。
これは、硬い・柔らかいを素材で分けるのではなく、構造そのもので性質を決めるという考え方だ。
一つの部品の中で、役割を分け持つ――まるで生き物の筋肉や骨のような発想である。
このような構造は、従来の加工方法ではほとんど実現できなかった。
しかし、3Dプリント技術、特に 光造形(DLP/SLA)方式 によって、初めて可能になった。
3Dプリントがもたらす「設計の言語」と「製造の自由」

光造形方式の3Dプリントには、次のような特長がある。
- 非常に細かい形まで正確に作れる
- 内部に複雑なメッシュ構造を組み込める
- 表面が滑らかで、力が一点に集中しにくい
- 部位ごとに強さやしなやかさを変えられる
これにより、一つの構造の中で「支える」「動く」「衝撃を吸収する」といった役割を同時に持たせることができる。
機械の設計は、「部品を集めて組み立てる」ものから、構造を設計し、そのまま形にするものへと大きく変わりつつある。
XPeng IRONの事例は、この考え方がすでに現実のレベルに達していることを示している。
PollyPolymer が支える「立体メッシュ構造」の現実化

このような構造を成立させるうえで欠かせないのが、材料の存在だ。
PollyPolymerは、光造形に適した 強度と弾力性を兼ね備えた特殊な樹脂 を開発してきた。
それにより、
- 繰り返し動かしても劣化しにくい
- 衝撃を受け止める力が高い
- 部分ごとに最適な硬さを持たせられる
- 表面が滑らかで、内部に無理な力がかかりにくい
といった特性が実現されている。
さらに、これらの技術はすでに量産にも対応しており、靴底やヘルメット、クッション、座席部材など、さまざまな分野で実際に使われている。
立体メッシュ構造は、もはや研究段階の技術ではない。
実用技術として確立された基盤の上に成り立っている。
「構造としての筋肉」が開く、応用の可能性
柔らかさと強さ、軽さと耐久性。
これらを同時に満たす立体メッシュ構造は、次のような分野で大きな可能性を持っている。
- 人型ロボットの関節や脚部
- 医療用の装具や義肢
- スポーツ用ギアやプロテクター
- シューズのミッドソールやインソール
- 身につける機器のクッション部材
いずれも、「力を受け止めながら、自然に動くこと」が求められる領域だ。
立体メッシュ構造は、そうした要求に対する有効な答えとなる。
3Dプリントは、もはや試作のための技術ではない。
構造そのものを設計し、機能を生み出す技術へと進化している。
脚部を切り開いて示された、構造と材料の未来

XPeng IRONの脚部を実際に切り開き、内部構造を公開して見せた行為は、単なる衝撃的な演出ではなく、機械設計の価値観を切り替える象徴的な出来事だった。
金属の骨格を中心とした時代は終わり、これからは材料 × 形状 × 造形技術によって、「強さ」と「しなやかさ」を両立する機械が当たり前になる。
PollyPolymerとAPPLE TREE株式会社は、その未来を支える構造設計と材料開発の最前線に立っている。
「柔軟さで支える」「構造で動く」
そんな新しい機械のかたちは、すでに歩き始めている。





